日韓問題(初心者向け)

日韓問題について、初心者でもわかりやすい解説と、日韓問題とマスコミ問題の動画のテキスト版を投稿しています。

【世界遺産】「明治日本の産業革命遺産」はどうしてあのような形になったのか


さて、今回は韓国との間で問題となり、つい先日になって登録の決まった「明治日本の産業革命遺産」についてとなります。


この問題は以前も書いていますが、今回は特に韓国との間で何が問題になっていたのか、そしてなぜ日本側は韓国側の言分を実質認める形となり、先々まで様々な遺恨として残りそうな決定をしてしまったのか、その辺りの問題を中心に書いて行きます。


最初にざっとこの問題の経緯を書いてしまうと、この問題の発端は去年(2014年)日本の自治体が軍艦島などを含む産業施設をユネスコ世界遺産に登録しようとしたところから始まります。
それに対して事前に韓国からクレームがきそうだという事が解っていたため、登録を「1910年まで」つまり日韓併合以前までとしていました。


が、韓国側はこれに反発「期間を限定するのは誤魔化しだ」とし、登録に反対の表明を行い各国に対し「あの施設は朝鮮人が強制労働させられていた施設にも拘らず、日本はその事を隠して登録しようととしている、歴史修正主義だ」とのロビー活動を行い政治問題化。


紆余曲折の末に先週末に日韓でいったんの合意をしたのですが、後になって韓国側が日本側の行った強制の表現にクレームを付け、最終的に法に則った戦時徴用がなぜかforced to work(強制で労役)という意味で登録され問題になりました。


結論を書いてしまうと、問題の原因は日本側が日韓の間にある価値観やあり方の違いを理解せず「最初に強制の定義を明確にしなかった」からです。
彼らは結論ありきで思考する傾向にあるうえに根拠をあまり重要視しないため、自らの望む結果に導くために次々と定義を変えていくという特徴があります。


要するに相手の反応に合わせてその都度定義が変っていくわけですが、これをやられてしまうと実質対応が不可能になります。
相手の言分に反論をしても、相手はその反論に合わせて定義そのものを変えてしまうのですから、これは当たり前です。


ですから、まず最初に厳密に定義を明確にさせ合意文書化し、それを公的に発表した後で定義された問題の範囲で交渉をすべきだったのです。


今回日本側は、本来韓国人と交渉をする上での必須とも言えるこの対応を行っていませんでした。
結果以下のようになりました。


対韓交渉「失格だ」 政権内に外務省批判
産経新聞 2015.7.6
http://www.sankei.com/politics/news/150706/plt1507060046-n1.html
安倍政権内で6日、世界文化遺産登録に関する日韓交渉の末に朝鮮半島出身者が「労働を強いられた」と陳述した外務省対応について、日本政府が「強制労働」を認めたと内外から受け取られかねないとの観点から「詰めが甘かった。職業外交官として失格だ」(官邸筋)と批判する声が出た。

 「明治日本の産業革命遺産」の世界文化遺産登録への協力姿勢に転じた韓国が土壇場で態度を硬化させ、日本から歩み寄りを引き出した経緯に関し、政府筋は「韓国にしてやられたということだ」と不満をにじませた。

 韓国から協力を取り付けた6月の日韓外相会談の段階で、陳述内容に関する同意を得なかったため、韓国側につけ込む余地を与えたとの思いが一連の批判の背景にあるとみられる。

 一方、政権中枢の関係者は「韓国の交渉態度がここまでひどいとは思わなかった。外務省の失態とまでは言えない」と擁護した。


記事中では「韓国の交渉態度がここまでひどいとは思わなかった。外務省の失態とまでは言えない」としていたり、「韓国にしてやられたということだ」と言っているようですが、長年韓国を観察してきた身からすると「韓国はいつも通りの事をしただけ」でしかありません。つまりこれはちゃんと韓国を観察していれば全て事前に予想可能な事だったのです。
政府側の態度は言い訳にすらなっていません。


そして重要なのは、彼らの言う「強制」がなんだったのかです。
皆さんは強制連行という言葉からどのようなイメージを受けるでしょうか。


1:軍人によって無理矢理連れてこられ、収容所での強制労働を強いられた
2:戦時徴用によって国民の義務としての労務に就いた


前者はWWⅡにおけるアウシュビッツのような強制収容所、或いは現在も中国や北朝鮮などに存在する政治犯収容所のようなイメージであり、いわゆる「強制労働施設」のことです。
後者は要するに現在の韓国でも行われている徴兵と制度上同じで、こちらは国際法上も合法です。


説明するまでもないと思いますが、強制連行とは明らかに前者のイメージです。
実際韓国は各国へのロビー活動ではそのように説明していました、以下のように


日本の奴隷労働施設が世界遺産認定(Japan slave labour sites receive world heritage status)
英国テレグラフ紙(英語) 06 Jul 2015
http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/asia/japan/11721164/Japan-slave-labour-sites-receive-world-heritage-status.html
23件の初期産業施設に関する日本の世界遺産認定への立候補が論議を呼んでいたが、日本が韓国に譲歩し、これらが強制労働(forced labour)の施設であったという点で合意したことで、認定を受けることになった。

日本の鉱山、造船所、製鉄所からなる施設群は、これらがかつて奴隷労働(slave labour)の舞台であったと同国が認めたことで、ユネスコ世界遺産の認定を受けた。
(後略)


決着一転…韓国、土壇場で「強制労働」に固執か 「軍艦島」をナチス収容所と比較も
産経新聞 2015.7.5
http://www.sankei.com/world/news/150705/wor1507050025-n2.html
 4日午前には、議長が仲裁のため日韓に呼びかけた協議を韓国側が拒否したとの情報もある。韓国のかたくなな姿勢がうかがえる。

来年は委員外れる日本「延期は最悪」

 関係者によると、韓国側は委員会でも激しいロビー活動を展開。「軍艦島」の通称で知られる端島炭坑長崎市)をナチス・ドイツによるアウシュビッツ強制収容所と比較して、他国に理解を訴えたという。

 5日の審査前には、「延期は最悪だ」と述べる日本政府関係者もいた。世界遺産の登録は全会一致で決まらなければ投票になる場合があり、来年は委員国に韓国が残る一方、日本が外れるからだ。

 他の委員国にとっても、日韓のどちらかを選ぶような投票は避けたいのが本音。委員国であるベトナム代表団の関係者は、「熱くならず、落ち着いて話し合ってほしい」とし、日韓双方に呼びかけていることを明らかにしていた。


では実際徴用は奴隷労働だったのかといえば、実態は明らかに異なります。
それを説明すると長くなってしまうので、以前書いたこちら(韓国が日本の近代産業施設世界遺産登録に抗議してきた理由)などを参照してもらうとして、重要なのは韓国はそのような前提で各国への周知を行っていたという事です。


そしてそのうえで、日本側との交渉過程では「本人の意思に反して労働させられていた」を強制の定義として使っていました。
たしかにこれも定義上は「強制」に当てはまり、日韓交渉の場では先ほど挙げた2の前提として日本側と交渉したのでしょうが、この定義は1にも当てはめる事ができるわけです。
つまり先ほど書いたように、相手に合わせて定義を変えていたのです。


2015年7月9日20:36分追記
間違いというほどではないのですが、私が当初意図していた内容とは違った表現になっていたので文章を書き直しました。


最初に定義を明確にしないからこうなるのです。
結果、日本側は後になって「強制労働の意味ではない」つまりこれは1のことでは無く2の事なのだと説明したわけですが、実際はテレグラフ紙のように「奴隷労働施設」という事になってしまっています。
当たり前です、韓国側はその定義でロビーを続けていたのですから。


そしてある意味で、日本側の反応は韓国側の望んだ流れでもあります。
彼らの望んだ流れとは、日本側の劣等性の証明です。


以前から書いていますが、韓国には蔑視ありきの自民族中心主義という独特の価値観があり、これは要するに他者の劣等性を担保として自己の優越性や正当性を証明するとの考え方で、相手の落ち度がそのまま自己の評価と直結しているのですが、世界遺産登録に関して実質「強制労働施設」と定義されたにも関わらず、日本側が「強制労働ではない」としたのは傍から見ると言い訳にしか見えません。


そしてそれは韓国的価値観における日本の劣等性の証明=韓国の優越性の証明の構図として理想的なのです。


そのため以下のように、韓国三大紙すべてがその事を批判する記事を書いています。


世界遺産対立:日本が態度一変「強制労働ではない」
朝鮮日報 2015/07/07
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2015/07/07/2015070700484.html


<韓日世界遺産葛藤>「強制労働でない」という日本に韓国政府「英語の原文を見るべき」一蹴
2015年07月07日07時46分
[ⓒ 中央日報/中央日報日本語版]
http://japanese.joins.com/article/768/202768.html


[社説]ユネスコ登録が終わるや「強制徴用」はないと言う日本
東亜日報 JULY 07, 2015
http://japanese.donga.com/srv/service.php3?biid=2015070709578



彼らはこれで自己の優越性を強く確認し、そこで終りでは無く「自分たちの優越性が確認されらのだから、日本は道徳的に正しい自分達に従わなければいけない」、その考えがより補強されたのです。


そしてここからが重要なのですが、こうなった以上この問題はこれで終りではありません。
韓国人が相手の落ち度を確認した以上、人間関係が基本「どちらが上か下か」しかない韓国人的価値観では、「道徳的劣等=自分たちより序列が下」の日本に対し、自分達は更に要求をする権利がある、と考えるのです。
つまり問題が今後増えるのです。


実際その傾向は既に出始めています。
以下の記事を


松下村塾世界遺産登録 韓国政府「問題意識ある」
聯合ニュース 2015/07/07
http://japanese.yonhapnews.co.kr/relation/2015/07/07/0400000000AJP20150707003000882.HTML
【ソウル聯合ニュース】韓国外交部の魯光鎰(ノ・グァンイル)報道官は7日の定例会見で、世界文化遺産への登録が決まった「明治日本の産業革命遺産」に松下村塾山口県萩市)が含まれることについて、「問題意識を持っている」と述べた。

 松下村塾は江戸時代末期に吉田松陰(1830~59)が主宰した私塾。吉田松陰は日本近代化の主役となった伊藤博文らの師として日本では尊敬されているが、征韓論大東亜共栄圏などを提唱し、朝鮮の植民地化を含めた日本の帝国主義政策に理論を提供した。安倍晋三首相が最も尊敬する人物とされている。

 魯報道官は報道陣から、松下村塾を問題視していないのか、それとも日本との関係を考慮して問題を提起しなかったのかとの質問に、「世界遺産委員会のレベルで(問題を)提起するのは効果的でない面がある」と述べ、今後、世界遺産を離れたほかの場でこの問題を検討する考えを示した。

 明治日本の産業革命遺産世界遺産登録をめぐり、韓国政府は戦時中に朝鮮人が強制労働させられた端島炭坑軍艦島長崎県長崎市)をはじめとする7施設について問題を提起してきたが、松下村塾については公の場で言及したことはほとんどなかった。



既に次のターゲット候補が出てきているのです。
韓国的価値観ではこれは当たり前です、相手が譲歩して実質韓国側の要求を受け入れ、それだけでもかなりの問題にも拘らず、更に韓国人の優越性を確認できるような態度を取ってしまったのですから、彼らが更に要求を増やしてくるのは必然なのです。
日本人の常識と照らし合わせて「非常識だ」と反発してもそこに意味はありません。


また更にこんな問題も出てきています。


日本の「強制労働」否定 根底に歪んだ歴史認識
聯合ニュース 2015/07/07
http://japanese.yonhapnews.co.kr/headline/2015/07/07/0200000000AJP20150707002000882.HTML
(前略)
日本が強制労働を否定する背景には、韓国で進行中の被害者の訴訟に対する懸念もあるようだ。

 1940年代に日本の軍需企業に強制徴用された被害者らは、後身の新日鉄住金(旧・新日本製鉄)や三菱重工業を相手取り損害賠償請求訴訟を起こし、一審、二審で敗訴したものの、2012年に大法院(最高裁)が「個人の請求権は有効」との判断を初めて提示し、審理を高裁に差し戻した。

 翌13年、ソウル高裁と釜山高裁はそれぞれ新日鉄住金三菱重工業に賠償を命じたが、被告側はいずれも大法院に再上告した。

 再上告審で原告勝訴の判決が確定し、韓国政府が被告企業の韓国国内の資産差し押さえに踏み切れば、韓日間の外交問題に発展する可能性も十分にある。



要するに、1965年の日韓請求権関連協定を無視した裁判への大義名分に利用する気満々なのです。
一事が万事、日韓の価値観の違いを理解せず、「強制の定義を明確にしなかった」たったそれだけでここまで事が大きくなってしまっているのです。


そして更に、これも以前から書いていますが、韓国側の想定する日韓友好とは、日本が道徳的過ちを認め常に謝罪し、それを韓国側が常に許し続けるというものです。
彼らは自己の絶対的正義を疑わず、また常に他者の落ち度を探しそれを自己の優越性の担保にしており、それが当たり前の社会なのですから、これも当然の反応です。


実際、朝鮮日報が以下のような記事を書いています。


【社説】韓日関係改善の機会を作っても踏みにじる日本
朝鮮日報 2015/07/07
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2015/07/07/2015070700505.html
(前略)
 韓日は日本の産業施設の世界遺産登録をめぐり全面的な外交戦を繰り広げてきた。最も近い隣国同士が相手国の世界遺産登録の是非をめぐり争ったこと事態が異常であり、両国関係の現実を示している。今回のように状況を変えられるチャンスをつくっても、かえって不信感を高める原因をつくりだす行為を安倍政権がやめない限り、真の韓日関係正常化には程遠い。


要するに「我々が許しを与えるチャンスをつくったのに、日本がそれを踏みにじった」としている記事です。
これは韓国人にとって最も理想的な形です。
常に日本の劣等性=自己の優越性を韓国人自身が目に見える形で自覚できるからです。
むしろ韓国は、特に最近この形へともって行くためにあえて無茶な要求をしている節すらあります。


このように、相手の価値観を理解しないまま、日本の常識で韓国との交渉にあたった結果、日本人の常識では「ありえないこと」を韓国側にされてしまい、更なる問題の悪化に繋がったのです。


こうなってしまうと、既に日本の戦時徴用=強制労働との言質を取られてしまっていますから、今後の日韓交渉はより難しくなりますし、これに関係して三菱訴訟のような民間企業をターゲットとした韓国側の行動も今後更に増えて行くでしょう。


日韓の価値観や常識の違いとはこういうものなのです。
正直、外務省がこの「定義を最初に明確にし公にする」「定義の範囲で交渉し、定義から外れた主張にはその都度具体的説明を求める」「決定は全て文書化する」という極基本的な対応を把握していなかったのは、あまりにも予想外でしたが。


勿論それでも韓国側は同じ対応をするでしょうが、少なくとも彼らの思惑に流されるということは無くなるわけですから。
やるのとやらないのとでは大違いです。