さて、今回は現在韓国が進める歴史問題と政治を切り離す外交政策である「ツートラック」に関係した内容となります。
この韓国政府の方針、今年の3月末辺りから顕著になってきていますが、以前も書いたように日韓の根本的な価値観やそれに基く考え方の違いから、韓国では既に「自分達は努力した事」になっていたりと、実質的な有名無実化が進んでいるわけですが、実はそれ以外にも韓国人の「絶対的正しさ」を煽る事で、このツートラックそのものを否定するようなそんな動きが出てきていることも、問題の深刻化に拍車をかけています。
そして重要なのは、前者は韓国人的価値観を背景とした自覚無く行われる問題であり、後者は明らかにそう「意図して行われている」問題という事です。
今回は特に後者が本題となります。
まずその前に、現在の韓国政府や政府寄りの全国紙などの論調・方針などを紹介します。
現在の韓国政府は、恐らくアメリカや韓国内の財閥などから日韓の関係改善努力をするよう、相当な介入がある事は容易に想像できるのですが、その事もあって韓国三大紙である朝鮮日報、中央日報、東亜日報などでは、いかにツートラック戦略に正当性があるか、そういった趣旨の記事が特に最近非常に多いです。
また、韓国では単に歴史問題を棚上げする「ツートラックの正当性」を訴えるだけでは「親日派の売国奴」とレッテルを貼られるだけであるので、特に先週辺りから外国人の言葉を使って「説得」を試みようとする動きが非常に活発化しています。
以下の2つの記事がその代表例でしょう。
インドネシア前大統領、韓国に未来志向を呼び掛け
朝鮮日報 2015/05/25
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2015/05/25/2015052500761.html
インドネシアのスシロ・バンバン・ユドヨノ前大統領は22日、朝鮮日報のインタビューに応じ、「インドネシアは過去10年間に主要20カ国(G20)で中国に次ぐ高い経済成長率を記録し、経済成長と民主主義に同時に成功した」と評した。ユドヨノ大統領は同国初の大統領直接選挙で選出され、2004年から10年間在任した。
第10回済州フォーラムに出席したユドヨノ前大統領は「インドネシアは経済成長と民主主義を困難であっても同時に追求しなければならないという事実を学んだ。独立直後には民主主義を追い求める余り、経済を失い、スハルト政権は経済を追求する余り、国民の権利を制限した」と述べた。その上で、「政治は騒々しいのが普通で、インドネシア国民はデモも好む」とも語った。
1800年からオランダの植民地統治を受けたインドネシアは、1945年8月17日に独立を宣言した。その後4年間、オランダと独立戦争を戦った。ユドヨノ前大統領は、最近には反オランダ感情は薄らぎ、二国間関係も正常化の途上にあると説明した。その例として、2005年のインドネシア独立60周年記念式典に当時のオランダ外相が出席し、独立運動を弾圧したことを謝罪した点を挙げた。最近オランダの裁判所は独立戦争当時のインドネシアの犠牲者に賠償を行う責任があるとの判決を下した。
ユドヨノ前大統領は、韓国に過去ばかり見るのではなく、未来を見つめるべきだと助言する一方、「日本政府は韓国人の傷を癒すために何かをすべきだ。それが賢明だ」とも述べた。その上で、「苦痛を直接経験した世代は忘れることも許すこともできないが、次の世代は忘れなくても許すことはできる」と呼び掛けた。
元豪首相「戦後日本は国際社会の良い一員だった」
朝鮮日報 2015/05/25
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2015/05/25/2015052500765.html
ジョン・ハワード元豪首相
「豪外交政策の根幹は実利、米との関係強化しつつ中国に接近」
ジョン・ハワード元オーストラリア首相は21日、本紙とのインタビューで、「外交の根幹は実利だ。オーストラリアも第二次世界大戦時に日本軍の被害に遭ったが、過去は通り過ぎていき、感情は消えた」と述べた。同氏は1996年から11年間にわたりオーストラリア首相を務め、2006年に米国・日本・オーストラリア3カ国間安全保障協力体制の「日米豪閣僚級戦略対話(TSD)」を作った。
国際会議「済州フォーラム」に出席するため訪韓した同氏は「韓国・中国と比較するべきではないが、オーストラリアも第二次世界大戦時に日本軍の爆撃を受け、捕虜たちも過酷な扱いを受けた。それでも、オーストラリアが日本に一貫して言われ続けたのは『遺憾だ(regret)』という言葉だけだ。私たちは日本の蛮行をよく知っているが、今は(過去について)見過ごすことが双方にとって利益になることもよく知っている。戦争後、日本は国際社会の良い一員だった」と言った。同氏は05年、イラクに派遣された日本の自衛隊を守るためオーストラリア軍450人を派兵した例を両国関係の成熟の証拠として挙げ、オーストラリアの外交政策を「実利」の一言に集約した。
同氏は第二次世界大戦後の世界を変えた2つの出来事として「ソ連崩壊」と「アジアの成長」を挙げた。そして、「オーストラリアは時代により利益に合うように外交政策を展開してきた」と、米国との関係を強化しながらも、中国と接近してきたことを自身の最も誇るべき業績に挙げた。オーストラリアの対中輸出は、同国の輸出全体の60%を占めている。また、「米国と近いからといって、オーストラリアが中国と関係を結べないという意味ではない。中国は米国とオーストラリアの間の緊密な関係をよく理解している」と述べた。
こういった記事は、とにかく何とかして「ツートラック」を成り立たせ、国民に納得させようと、そういった意思から行われているわけです。
ただし、こうした動きは我々の考える関係改善とは全く別物であり、以前も書いた「日本を上手く利用してやろう」という、90年代までの韓国の方針に立ち返る「用日論」である事は考慮しておかなければいけません。
色々と引っかかる部分もありますし、自分本位過ぎて日本側からは受け入れられない部分も多いですが、大筋でこれが現在の韓国政府の方針です。
が、このツートラックを進めることで、歴史問題が日韓の決定的な外交問題では無くなることを望まない人々がいます。
そしてそういった人々が、延々と「歴史問題を棚上げするな」「日本に(韓国人が100%望む形の)謝罪と賠償をまずさせるのが先だ」と、特に最近になって事実上ツートラックを政府に断念させるよう煽り始めているのです。
たとえば以下のような記事が典型的でしょう。
[社説]韓日外交正常化の条件
ハンギョレ新聞 2015.05.26
http://japan.hani.co.kr/arti/opinion/20783.html
日本の従軍慰安婦問題に対する日本政府の歪曲中断を促す日本史の学者の声明が25日発表された。韓日関係を改善すべきという声が高まるなかで生まれたものゆえにいっそう意味深い。安倍政権はこれを契機に、慰安婦問題をはじめとする過去の歴史解決に積極的に取り組むことを望みたい。
声明に参加した団体は、歴史学研究会など大型の四つの歴史団体をはじめとして16の歴史研究・教育団体が網羅されている。半年程度の準備期間のうち「一致を見た意見」を集めたというのだから、声明内容に重みが感じられる。核心部分は、慰安婦の強制連行は歴史的事実であり日本政府はこれについて責任があるというものである。慰安婦動員の強制性は認めながらも、強制連行を否定したり巧妙に責任を回避してきた安倍政府の態度は間違っているというものである。この声明は6日に国際社会の歴史学者187人が表明した慰安婦関連の声明と脈絡を共にしている。安倍政権は自国の学者も認めている事実について執拗に目をそむけようとする姿勢から早急に抜け出してこそしかるべきだ。
安倍政権の“歴史の握り潰し”にもかかわらず、先月末の米日首脳会談などを契機に韓日の外交関係を正常化しようとする動きがあるのは事実だ。23日に東京とフィリピンのボラカイで韓日両国財務相と通産相の会談が開かれた。ともに2年以上中断されていた会談である。特にチェ・ギョンファン経済副総理は朴槿恵(パク・クネ)政権の副総理級以上の高位級官僚では初めて日本を訪問している。30日にはシンガポールでアジア安保会議(シャングリラ対話)を機に韓日防衛相会談が開かれる。一見すると両国が首脳会談開催のための手順を踏んでいるかのようだ。
日本は韓米日の三者協力強化を求める米国を後ろ盾にして韓日の関係改善を押しつけている。しかし安倍政権が過去の歴史解決に消極的な態度を見せている限り、韓日外交の真の正常化はありえない。部分的に政経分離や実用外交が試みられても、日本の本音についての疑念が失せないためだ。米国政府が過去の問題で中立的そうに見えて事実上日本の肩を持っているのも間違っている。第二次大戦以降の歴史を見たとき、米国は過去の歴史解決について真実に基づいて積極的に取り組むべき義務がある。
歴史に縛られて何もできずにいてはならないという言葉は正しい。過去より現実や未来が重要だという主張も妥当だろう。しかし歴史の真実はそれ自体が現実と未来を規定する。方便で固められた関係は砂上の楼閣のように危ういものである。
ハンギョレ新聞は、韓国の典型的な親北、親中派です。
当然のことですが、北朝鮮も中国も韓国が歴史問題で「後退」し日本との関係を改善する事を望んでいません。
ですのでハンギョレは、こうやって「韓国人の絶対的正しさ」を煽る事で、実質的に韓国政府のツートラック外交を否定しているわけです。
そして重要なのは、記事中にもあるようにこの方針を日本国内から後押しする人々がいるという事です。
彼らが親北や親中なのかどうかは知りません、一つはっきりしているのは、彼らからしても韓国の現在の方針は非常に都合が悪いという事です。
なぜならば「日本政府批判に利用できなくなる」からです。
彼らは別に韓国のためを思って慰安婦問題でこういった事をしているわけではありません、単に自身の政治的スタンスから韓国の態度が日本政府批判に利用しやすいから利用しているだけです。
もしそうでないのならば、わざわざ韓国政府が事実上の「歴史問題棚上げ」方針を打ち出した直後にこんな煽るような事をする必然性が無いわけです。
要するに、彼らにとって歴史問題で韓国が日本と対立し首脳会談すらできないと言う状態は「望ましい状況」という事です。
「韓国政府がこう言っているのに、日本が反省せず頑ななのはけしからん」と日本政府批判に繋げることができるからです。
こういった背景があるのですが、以前紹介した韓国人的な価値観である「信用とはいかに相手が自身の気持ちを理解しているか」があるため、この手の韓国人の「絶対的正しさ」を煽る日本人達は韓国内で「良心勢力」と呼ばれ、非常に好感を持たれています。
つまり無警戒に受け入れられているのです。
この韓国の状態を見て、「このような状況であるのならば、問題があるにせよ尚更日本人としては韓国政府のツートラックという外交方針を支持すべきではないか」「この方針が続けば多少なりとも関係改善の芽が出てくるのではないか」と考える人もいるかもしれません。
しかし実態は韓国はもう手遅れです。
それは、現在の朴政権をどういった人々が支持し、どういった人々が不支持であるのかとみると一目瞭然です。
朴大統領支持率、60歳以上77%・20代11%
朝鮮日報 2015/05/09
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2015/05/09/2015050900606.html(リンク切れ)
http://web.archive.org/web/20150509165109/http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2015/05/09/2015050900606.html(ウェブアーカイブ)
朴大統領の支持率39%、先週と変わらず
公務員年金改革案の処理は白紙となったものの、朴槿恵(パク・クンヘ)大統領の支持率は先週と変わっていないことが8日分かった。
韓国ギャラップは、韓国国内の成人807人を対象に調査を行い、8日に5月第1週の集計結果を発表した。この結果によると、朴大統領の職務遂行を「支持する」と答えた人は39%、「支持しない」と答えた人は52%で、いずれも先週と同一だった。
世代別で見た支持率は、60歳以上が77%で最も高く、次いで50代が52%、40代が28%、30代が17%、20代が11%という順だった。
若い世代ほど朴政権への不支持が大きいのです。
この結果なのですが、現在の韓国は経済政策の失敗から若年層の失業率が非常に高く、そのことも関係しているので、一概に「ツートラックへの不支持」とも言えない部分があるのですが、それでも朴政権の対日方針に不満のある若年層が非常に多い事は間違いが無いです。
これは要するに、上記で挙げたハンギョレなどの親北派の勢力が韓国内で非常に強い影響力を持っている事を意味しています。
特に韓国では、民主化以降教育界に親北派が多数入り込んでおり、そういった人々が韓国人の民族主義を煽り続けた事が関係しています。
結果として、現在の韓国人は若い世代ほど民族主義の傾向が強く、だからこそ「民族の正しさ=韓国人の絶対的正しさ」を信じて疑わないので、絶対的正しさの象徴としての「歴史問題」で韓国側が少しでも譲歩するような態度を取る事を一切許容できないわけです。
彼らからしてみれば正しさを否定する事は民族を否定されるのと同じ事、そんな感覚と考えてもらえば良いです。
また更に、韓国で「良心勢力」と呼ばれている日本人達は、こうした韓国内の親北派と非常に近しい関係にあり、また「韓国人の民族主義に根ざした正しさ」を煽るような事を、先ほども書いたように韓国内で行い続けるため、「日本人も大半は正しさを理解している」「おかしいのは安倍と安倍の支持者の右翼だけだ」と多くの若い世代の韓国人が考えている傾向にあります。
だからこそもう手遅れなのです。
若い世代ほどツートラック外交=現実的な外交と歴史問題の棚上げを許容できないのです。
しかも事実上、現在公的に日韓の友好をしようと訴える日本人はこんな人達ばかりになっているうえに、こうした韓国側の背景も知らずに「良心勢力」の言動を支持している日本人もかなりの数います。
結果として全てが悪い方向へと向かっているわけです。
これが現在韓国で起きていることです。
最後に。
現状最早韓国は何もかもが手遅れの状況なのでどうしようもないですが、問題はこの韓国で「良心勢力」と呼ばれている人々が、現在の日本で非常に大きな発言力を持ち続け、支持者も多いという事です。
そしてこういった人々が日本に少なからず存在しているという事は、まかり間違えば日本も韓国のような「手遅れ」な状態になっていた可能性があったということです。
現在日本はそうなってはいませんが、こうした人々が存在する限り「ミスリードされる可能性」は常に頭の片隅に置いておかないといけません。